Monday, May 25, 2009

ドイツの予感。


金曜日の試合終了後、そのまま飛行機に飛び乗りドイツにやってきている。
1年半ぶりの欧州。何やかんやですっかりご無沙汰してしまっていた。
で、欧州に来てサッカーを観に行かないわけにもいかない。
ターゲットは決めてある。

その試合、キックオフは前日に行われたSリーグ第13節のちょうど24時間後。
大体同時刻にドイツの全ての最終節がキックオフするので、
基本的には一試合しかチョイスすることができない。
何とも慌ただしいのだけれど、どうしても観たい試合があった。

選んだカードは、
ブンデスリーガでのヴォルフスブルグの優勝決定の瞬間でもなく、
バイエルンの2位確定を決めた試合でもない。
ましてや稲本不在のフランクフルトや小野不在のボーフムなど観るはずもない。

現在はドイツ3部リーグ(レギオナルリーグ)に所属する
これをどうしても観たかった。

フォルトゥナと言えば、
1979年にはカップウイナーズカップ(当時)のファイナルまで行って、
バルサ相手に3-4という壮絶な撃ち合いの末に散ったこともあるチームである。
いわゆる、エリート古豪。
それが近年は3部や4部(オーバーリーガ)をぶらぶらとふらついている体たらく。

だがしかし、今季は何故か調子を取り戻し(3部だけど)、昇格争いに加わっている。
歴史あるクラブが再び力を取り戻そうとすると、オールドファンがこぞって集まってくる傾向があるのは知っている。
盛り上がりそうだなあ。

昇格の条件は、勝てば文句なし。
引き分け、負けだと周囲の結果次第。
相手は先週UEFAカップのファイナルで敗れたブレーメンのセカンドチーム。
ここにも盛り上がる要素は、ある。

そして舞台はLTUアレナ。
2006年ドイツワールドカップのために作られたけれど、
結局使われなかったスタジアム。
日本の3部リーグに当たるJFLを思い描けば、50,150人収容という規模はさすがに3部リーグで手持ちぶさたになっているのだろうなあ、と思っていたのだけれど、普段から1万人前後の観客が入っているというのだから恐れ入る。
注目を集めるだろうこの試合、普段よりも観衆は多いだろうという予測はできた。



さらにWEBサイトでのチケットを予約しようとしたら、「完売」とのドイツ語。
おお、と軽い衝撃。
まあ、そうは言っても、例えば2階席は解放しないからなんだろうな、とか、
前売り分がさばけただけなんだろうな、とか、
その程度のレベルだと思っていたのも事実である。
けれど、それでも期待感は募っていく。

実は、そのあたりの情報を続々と知ってから、ワクワクが止まらなかった。
これは、「ドイツの予感」である。
3部リーグの試合が故に、「ドイツの底力」を目の当たりにすることができるのでは?、と――。



「ヨーロッパ行ったらまたビール呑みましょうね」と以前からふんわりと約束していた、
オランダでサッカージャーナリストとして活躍している中田徹さんに連絡して、
「実はその日にはこれこれこういう試合があるんですよね。それ観た後ビールとソーセージどうですか?」と提案すると、
二つ返事で、「お、いいね」と。
アムステルダムから車を飛ばして来てくれることになった。

さて、旅の道連れができたことによって、
例え試合がつまらなくても、思ったほど盛り上がらなかったにせよ、
まあ、ビールとソーセージをお腹いっぱいという目標は確実にクリアできるので、
何とも気楽になってデュッセルドルフに向かった、というわけなのだ。


当日の朝、フランクフルト空港からデュッセルドルフの中央駅にたどり着くと、
そこには既にフォルトゥナのシャツを着た老若男女たちが意気揚々とビール瓶片手に騒いでいた。
ざっと見渡しただけで1,000人くらいのサポーターがいたんじゃなかろうか。

「何だ?この盛り上がりは?」
と、半ば動揺しつつ、けれど、半ば自分の予感が当たりつつあることにニヤニヤしつつ、
とりあえずホテルでシャワーだけ浴びて、中田さんと待ち合わせしているスタジアムへ向かった。

地下鉄は当然のように男たちが95%以上を占めた濃厚な満員電車、である。
どの男たちも、悪ガキのように錆の目立つ車体を両の手のひらで叩き、
全力でジャンプして揺らしながら大声で歌を歌っている。
と、そのうちにタバコの香りも漂ってくる(もちろん禁煙だ)。

別段驚くこともないヨーロッパのどこにでもある風景なのだけれど、
自分の中で時折「これ、3部リーグなんだよなあ…」とニヤけつつ、つぶやく。

キックオフ1時間半前にスタジアムに到着。
ドデカい近代的なスタジアムと、
早くも長蛇の列を作っている赤と白を身にまとった無数のサポーター。
そして、多方面から外壁にぶつけられているのは、歌、歌、歌。
何より、「この試合を選んだのは間違ってなかった!」という超個人的な喜び。


中田さんと合流して、スタジアムで販売されていたビールとソーセージを頬張りながら、旧交を温めさせてもらう。
近況報告と情報交換。
話題はサッカー以外にあるわけがない。

「中田さんはメディアで申請するのかと思ってましたよ」
と言うと、
「こういう試合は、いちサポーターの気分で観たいじゃないですか」と、中田さん。
うん、ステキだ。
というわけで、二人でゴール裏の席へ。
アウェイ側のチケットが当日販売されたのだ。

続々と埋まってくる席。
アウェイ側と言えど、見回す限り全てのヒトがフォルトゥナの応援をしている。
そして、試合開始直前にはスタジアムの全ての席がほとんど埋まっているように見えた。

意気盛んにリズムを取る太鼓の音、
ブレーメンの選手紹介のときの悪魔のような指笛、
「フォルトゥーナ!フォルトゥーナ!」という圧倒的な怒号。
あらゆる音が混濁しながら、黄緑色に光り輝くピッチへと注がれていく。
13:30のキックオフ、清々しい青空と相まって、ひたすらに爽快な気分だった。

そして気がつけば、3部リーグの試合だということを、全く持って完璧に忘れ去っていた。


残念ながら、試合の内容はほとんど覚えていない。
印象があったとしても、
「フォルトゥナ、頑張ってボールを追いかけるチームなんだな…」
という程度。

これは試合前に少々呑みすぎたビールのせいではなく、あくまでサッカーのレベルの問題。
はっきり言って、ヘタクソだ。
Jリーグの方が遙かにレベルが高い試合を観せてくれるし、
Sリーグと比較してもそんなに驚くほどのことでもない、ような気がする。
速さと強さは確かにあるけれど、「あれ、こんなもん?」と肩透かしを食らった感じだった。

でも、それだけに、
このレベルのサッカーにこれだけ熱狂する人々がいるという「驚異」を改めて痛感する。
どうしてなんだろう。何でなんだろう。

でも、どうやって考えてもムダなんだと思う。
「忠誠心」とかその程度の生易しい言葉では語れない、文字通りの「血肉」なんだろうなあ。

後半開始直後に観客数の発表があったのだが、その数なんと50,095人(!)。
「ほぼ満員」という印象は間違っておらず…、というか、
むしろ間違っていて、完璧な満員だったのである。

おいおい、3部だぞ!?
リーガエスパニョーラの2部、3部や、イングランドの2部、3部は観に行ったことがある。だけど、いたとしても数千人の下の方程度の観客だった。
それが、桁違いの50,095人!!

そして試合は、前半12分に右サイドのあまりセンスを感じなかった選手が、
やたらめったら蹴ったクロスがそのままゴールに入るという幸運で、
フォルトゥナが1-0の勝利。

主審(女性だった。しかも上手い!)がホイッスルを吹く直前くらいからピッチに観客がなだれ込んできて、タイムアップの瞬間には発煙筒とともにピッチに入り乱れるヒト、ヒト、ヒト。
僕らも「同じアホなら」というわけで一緒になってピッチに入っていった。
最終的に多分、10,000人くらいはピッチにいたと思う。
ファンたちは好き放題に写真を撮りながら、そこら中の人たちと抱き合って、歌を歌って、ついにはピッチの芝生をめくって持ち帰っていた。
さすがにこれには「同じアホなら」とは思わなかった。





つい先ほどまで選手たちが試合をしていたピッチに立ちながら、
「スゴイ経験をしてしまいましたね」
と言うと、
「僕はヨーロッパで10年も何やってたんだ、って思っちゃった!」
と、中田さんはほとんどの興奮と少しの寂しさが混じった顔をして言っていた。

その後、中田さんと僕は市内へ戻って、ビールを片手にまだまだ騒いでいた多数のサポーターを横目に、何件かレストランをハシゴしながら、お互いにお互いの約束を果たした。



まんまと「ドイツの予感」は的中し、
「ドイツの底力」を予想以上に観ることができて嬉しかったのだけれど、
本音を言えば、やっぱりちょっとだけ「悔しいなあ」と思った。

日本だって。
シンガポールだって。



この地方の名産、アルトビアは、濃厚で少々苦い。

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