Monday, May 03, 2010

インドネシアサッカー漫遊記。



この4月、2回ほどインドネシアへサッカーを観に行った。
「観客が数万単位でいる」とか「ファンはみんな熱狂的だ」とか聞けば、
いちサッカーファンとしても黙ってはいられぬ。

そもそもアルビレックス・シンガポールは「日本とアジアの架け橋」という理念を掲げており、
こと選手に関しては「育成し活躍の場を与え、ここから旅立たせる」という流れを重要と捉えている。

昨年ウチのクラブから内田宝寿、足立原健二という2名の選手がインドネシアへと移籍した。
インドネシアへ直接移籍する初めてのケースだった。
両者ともにリーグ戦での活躍が認められてのオファーだったということもあり、
リーグ戦途中ながらクラブとして移籍を認めた。

「試合観に行くから」
と約束した手前…、というのもあるが、
何より今後クラブの供給先になるかもしれない国の事情をもっと知らねばいかん、と。

脱線するが、2億4000万の人口を抱えるインドネシアは、
今後20年くらいはビジネス上でも大きな意味を持つ国になる。
内需パワーが今後も増大していくので、東南アジアで最も爆発力を持つ国であることは間違いない。
そういう意味でも知っておく必要がある。

内田は熱狂的なファンが数多く存在するインドネシア第二の都市スラバヤ。
足立原はインドネシアでアウェイチームが最も厳しい環境だと言われている(辺鄙なので…)、
東カリマンタン島の港町ボンタン。
おあつらえ向きに二人の選手がともに振れ幅が大きな特徴あるクラブ(そして都市)に在籍してくれているため、
視察としてはムチャクチャ意義深かった。
二人は色々助けてくれたり案内してくれたり、しかも試合に勝ってくれたり。
本当にありがとうございました。
(そして、スラバヤでは日本人の皆さまに大変お世話になりました。ありがとうございました)

ちなみに恥ずかしながらコレナガは初めてのインドネシア。
飛行機で2時間程度の距離なのに。
近くて遠いとはこのことか。


◆スラバヤ編
インドネシア第二の都市、スラバヤ。
「日本で言えば、大阪」という言葉を借りれば分かりやすいのだが、やたらと熱い。
そんな街にある今年2部リーグから昇格したペルセバヤ・スラバヤ。
熱狂的なファンが多くインドネシア有数の人気チームであるというのも頷ける。

新聞では毎日クラブが取り上げられる(まるでデ○リースポーツのようだ!)。
選手がこう喋ったとか、練習の様子だとか、なんだかよく分からない噂、とか。
どうやらTV中継の頻度も他チームに比べてもかなり多いらしい。
兎にも角にも、人気チームである。

試合会場で見かけたサポーターの多くは意外なことに「少年たち」だった。
観戦した試合は平日の昼間に行われたのだが、
中学生ほどに見える彼らは、
わずか20,000ルピア(約200円)ほどの入場料を支払うことを拒み(もしくは支払えずに)、
柵を乗り越えたり網を破ったりしながらスタジアムへ堂々と「侵入」する。
さらに、できればもっと良いところへ、ということでVIP席にも網を破って「侵入」してくる。
徐々にスタジアムが無法地帯になっていく。

試合開始30分前。
35,000人収容のGelora 10 Novemberスタジアム(完成した日だか、首長の記念日だったか…)の
バックスタンドを見やると、いつの間にか上半身裸の大応援団が整っていた。
上半身裸のサポーターたちがコールリーダーに合わせて
腕を上下左右に激しく振りながら統制のとれた声援を送る。
見とれてしまうほど、壮観。
スゴイスゴイとは聞いていたけれど、これほどまでとは。

【はい、上に~】


【はい、横に~】


余談だが帰りの車中で、小さな(おそらく軽)トラックの荷台に、
20人くらい乗っているサポーターの少年たちを見た。
驚くべきことに彼らは「勝手に」乗っているようで、適当な場所に着いたら「勝手に」降りるようだ。
ドライバーも彼らが凶暴なため(クルマに何されるかわかったもんじゃない)、
とりあえずおとなしく乗せてしまっているようだ。

同行してくださった日本人の方が、
「一人一人は悪くないんですけどね。この国の人たちは群集心理が凄まじい。集まると急に強気になるんです。向こうが二人でこっちが一人くらいだと何にもしてこないんですけど、向こうが三人になった途端殴りかかってきます 笑」
と冗談交じりに言っていた。

さらに、「学校はどうしたんでしょうね?」尋ねると、
「行ってないんじゃないですか。特に試合の日は行かないんじゃないですかね」とのこと。
外務省のHPにインドネシアの就学状況が載っている
中学生は一応、義務教育であるはずだが…。
(繰り返すが、この日の試合は平日の昼間に行われている…)

このサポーター(なのかどうなのかもはや怪しいところだが…)たちの狼藉話は枚挙に暇がない。
試合当日も朝から250人くらいのサポーターがスタジアムの前で「金がない!」と強請りを行う。
先日の試合ではアウェイのサポーターが多数で列車に無賃乗車。
スラバヤのサポーターがその彼らに投石をして死傷者も出たという。
悲しいが、まだインドネシアの実情はこうなのである。

そんな環境で内田はスター選手として迎えられている。
スタジアムでは「タカ!タカ!」という声が、
日本人的な身なりをしているコレナガに向けてあちらこちらから浴びせられる。

【試合開始前、バスの到着を待ち…】


【内田宝寿が出てくると、大歓声。】


【逞しくなった内田のプレー】


【試合後はピッチに降りてきたファンと撮影】


試合は3-2と逆転勝利したものの試合後に内田が話してくれたように、
「酷かったですねー」という内容。
スラバヤも降格争い中、そして対戦相手は最下位ということもあったのか、
典型的な縦ポンサッカーが90分間続き、
話に聞いていたような「高い個人技」などはお目にかかることができなかった。
「(イスラム教の色が濃いため)毎朝6:30から練習開始です」というトレーニングの成果か、
フィジカルの強さは目についたのだけれど。

【試合終了後はスクーターで大移動。】





◆ボンタン編
噂に違わず、何もない町だった。
シンガポールからバリクパパンへ2時間30分程度のフライト。
そこから5時間のドライブ。
このドライブがコレナガ史上最高に大変だった。
(高速道路があると勝手に思い込んでいたため、余計に衝撃が大きかった)

道路の大部分が舗装されているのだが、日本のそれをイメージしないでいただきたい。
「何となくコンクリートを流し込んでみました」という程度なので基本的にボコボコとしており、
平坦な道でもかなりの上下動を感じる。
さらにほとんどの箇所が、過酷な山道である。
カーブの連続、下り終えれば登り、登り終えれば下り。
真っ直ぐな道がほとんどない。
さらに両脇に街灯などあるわけもなく、
ドライバーがふっとハンドル操作を誤れば簡単にジャングルの崖下に落ちれる。
(急いでるだろうからと、ありがたいことに気を利かせて)80km/h~100km/hで疾走するタクシーの中で
内容物がピンボールのように上下する胃を抑えながら、
カーブの途中で対向車が突っ込んで来ないことを必死で祈っていた。

Mulawarmanスタジアムは12,000人収容ということで他のクラブの器より小さいのだが、
他に娯楽がないからのか、小さな町の興味はここに集中する。
スラバヤに比べてファミリー層が圧倒的に多く、
ジャッジに不満なファンがモノを投げ込むとかはまあまああるのだが、
危害にさらされるような香りはしない。

【会場の外から試合を見守る】


【ヨーロッパの小さな町にあるスタジアムと雰囲気が似ているなあ】


足立原は相変わらずのクイックネスでこの日も2ゴールを奪い、得点ランキングの上位につけた。
両サイドをきっちりと使いながら激しく上下動するサッカーは非常に興味深く、
中位のチーム相手に危なげなく4-1で勝利した。
ちなみにこの日は同じチームに菊池完、対戦相手に小森田友明と、
3人の日本人選手が同じピッチに立っていた。
この流れは加速するはずだ。

【両袖にはカリマンタンの伝統的なデザインが入っています】


足立原に「どうしてそんなに点が取れるんだろうね」と改めて聞いてみたら、
「そうなんですよね。何がスゴイか自分でも分からないんですけど、集中力はついてきたような…」
なるほど。
確かにウチにいたときもトレーニングではからきしダメそうなときも、
いざ試合が始まると素晴らしいシュートを次々と決めていた。
選手にも色んなタイプがいて面白い。

さて、試合翌日に足立原が町を案内してくれた。
「ここにはあんまり来たくないんですけど…、見てみます?」
というので、町に2、3カ所あるスーパーマーケットの一つに入った。
巨大なという修飾語のつかない、一般的な「西友」の大きさをイメージしていただきたい。

入ると早速「ケンジ!ケンジ!」と何人もの店員から声をかけられていた。
おお、と驚いていると、
「ここなんですけど…」と指さす先に、「KENJI」ブランドが!
何と、この町のオーナーである市長が「お前のために作ったんだ!」というまさかのブランド。
タグを見るとKENJIと書いてあるのはその半数以下だったが、そのあたりはご愛敬か。

【ボンタン限定?KENJIブランド】


ほおお、と見とれていると、館内放送で「○※▲×○、ケンジー!」と流れ始めた。
どうやら足立原がやってきたのを知って「ケンジが来店中ですよ」みたいなことをアナウンスしているようだ。
シャイな彼は「コメントしろってお願いされるときもあるんです…」と言いながらそそくさと店を出た。

一般の人たちの数十倍のお金を稼ぐサッカー選手は大スターの扱いだ。
特にこの町では他に娯楽がない(しつこい?)ということもあって、誰もが知る有名人なのだろう。

おまけ【ボンタンの町には何故かマーライオンが!】




さて、選手個人の待遇へと話を移す。
サラリーは、高い。
Jリーグでくすぶっているくらいならインドネシアの方がたくさんもらえることはまず間違いない。
が、その分環境は過酷である。
とりわけ大変そうなのが、リーグそしてチームのマネジメントの部分だ。
(インドネシアだけでなく世界中の多くの国がこの問題をはらんでいることと思う が)
とりわけ彼の国は「背後」にある存在があまりにも大きいので、
選手にできることが限られてしまうような印象を受けた。
書くことすら憚られるのだが、周辺の話を聞くことによって色んなことが分かったので書いて みる。
(どこまで本当かは分からないけれど)
  • 基本的に、サッカーはマフィアが絡んでいる。
  • アウェイで のレフェリングは目も当てられない(無論、マフィアが絡むため)。
  • チームはマフィアの機嫌で獲得選手を決められてしまうことがある。
  • ス タジアムを改修すると自動的に1部リーグに昇格することができる。
  • 市長がベンチに座っていて選手交代を指示する。
などなど、にわかには信じがたい内容である。

これらのことを一言で表せば、
「選手は傭兵のような扱い。サッカー の背後には様々に暗躍する人々が蠢いている」
といったところか。
もちろん、この枠をはみ出るほど実績を残せれば問題ない が、現実的にはなかなか難しい。
何故ならレフェリングにも「見えざる手」が働いているからだ。
ゴールがノーゴールになったり、何となしに 退場になってしまったりしたら実績を残せるわけがない。

そんな状況を踏まえて、20歳そこそこの若い選手にはあまりオススメできないリーグだ、とは思った。
数万人単位のサポーターが集まるスタジアムでプレーするのは魅力的ではあるが、
モロモロの「しがらみ」によって色んなことが左右されてしまう現実に対して、
強い精神力がなければ受け入れることは難しいだろうし、
受け入れてしまえば選手としての成長を犠牲にしてしまうこともあるだろう。
結果的に選手としての寿命が短くなることもあるだろうし、リスクはそれなりに大きい。
逆にここのリーグでしっかりと活躍しながら成長できる選手がいれば、
その経験を持ち帰ることで日本サッカーがまた違った「強さ」を手に入れることができるかもしれない。
(念のため。サッカーにマフィアを入れろ、とかではない)

まだまだアジアは奥深い。
とりわけ、一般的なサッカーのアジア開拓はACLを契機に始まったばかりである。
近日中にタイ編、ベトナム編へと続けたい。

3 comments:

  1. 大変興味深い記事でした。
    タイ、ベトナム編も楽しみにしています。

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  2. 先週内田選手にスラバヤのレストランでお会いしました!すごく人気があるってレストランの人が言ってました。そういう選手がいるって事を知りこの記事を読みましたがいろいろあるのですね・・。勉強になりました

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  3. chiiさん

    あんまりガッカリされないでくださいね…。サッカー選手は職業ですから、彼らは彼らの誇りの中で仕事をしています。とりわけ内田宝寿はそういう男ですので、環境にアジャストしながら馴染んで行きつつ、自分の主張を通すという姿勢に毎度感心しています。

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